(財)日本中毒情報センターによる一般の錆取り剤中毒情報
●さび取り剤
[概要]
さび取り剤は大きく2 種類にわけることができる。一つはさびをとかして除去する方法で、他は機械的に除去する方法である。
前者は、リン酸によってさびをとかすもので、リン酸の含有率は
約20〜50%である。一部にシュウ酸(15%)が含まれている商品もある。その他、汚れを落とすための界面活性剤(少量〜40%)やアルコール類(イソプロピルアルコール、ブチルアルコール)、増粘剤、香料などが含まれている。
これらのpH は約0.3〜3 である。
後者は研磨剤を主成分とするもので、この他に界面活性剤(少量〜30%)や灯油(20〜50%)を含有するものもある。pH は約8〜10 である。
両者とも性状は液体からクリーム状のものまである。
[毒性]
リン酸:ヒト経口最小致死量 8mL(5)、
ラット経口LD50 1,530mg/kg(2)(3)
シュウ酸:成人経口推定致死量 15〜30g(ただし5g での死亡例あり)(5)
ヒト経口最小致死量 600mg/kg(6)
灯油:気道内に誤嚥しなければヒト推定致死量90〜120mL、誤嚥すれば
数mL 以下
[症状]
1)主成分がリン酸のみの場合:皮膚、粘膜に対する刺激炎症。嘔気、
嘔吐、腹痛、出血性下痢、代謝性アシドーシス、高リン酸血症、低カ
ルシウム血症の可能性
眼に入った場合、他の強酸に比して症状はかるく、治癒経過も速やか
2)リン酸とシュウ酸の場合:シュウ酸による腐食作用を考慮。経口摂取
時、症状は速やかに発現する。口腔・咽頭の化学熱傷、呼吸困難、出
血性胃炎、二次的なショック。低カルシウム血症による筋攣縮、筋線
維性攣縮、テタニー。著明な腎障害、腎尿細管腔におけるシュウ酸カ
ルシウムの蓄積
3)研磨剤が主成分の場合:研磨剤の毒性は低いので灯油の毒性を考慮
灯油:経口;口腔・咽頭・胃の灼熱感、嘔吐、下痢、傾眠、昏睡
気道内誤嚥;過呼吸、チアノーゼ、頻脈、発熱、肺水腫、肺出血
その他;接触性皮膚炎、眼に入った時は結膜炎
[処置]
酸が主成分の場合
家庭で可能な処置
経口:口腔内洗浄(多量の水または牛乳)、希釈(冷たい水または牛乳を
飲ませる)
経皮・眼:直ちに流水で最低20〜30 分以上洗浄
医療機関での処置
基本的処置:要すれば気道確保、ショックに備え点滴静注路の確保と体液
の補充。大量服用時は、冷たい牛乳で胃洗浄(早期に、穿孔
に十分に注意して)、粘膜保護剤の投与
対症療法
特異的処置:シュウ酸に対して
1)カルシウム塩投与:低カルシウム性テタニー予防のため
2)血液浄化法:血液透析・・・シュウ酸除去と腎不全対策
血液灌流・・・シュウ酸の血中濃度が高い時のシュウ酸除去
3)輸液:腎機能が正常な場合、腎尿細管のシュウ酸カルシウム結晶の
沈着を防ぎ、排泄を促す
4)重篤な場合:副甲状腺ホルモンの筋注
研磨剤が主成分の場合
家庭で可能な処置
吐かせないこと(気道内に誤嚥する危険性大なるため)
医療機関での処置
大量摂取時に胃洗浄を行うときは、誤嚥をふせぐ処置
流動パラフィン30〜100mL 投与
吸入時および誤嚥時は呼吸管理
化学性肺炎対策、対症療法(灯油の項(p.242)参照)
[確認事項]
1)商品名の確認:成分・組成の確認
2)摂取量と症状の有無
[情報提供時の要点]
酸を含有している場合
1)催吐や中和の禁忌
2)受診を指示
研磨剤が主な場合
1)研磨剤の毒性は低い
2)灯油が含まれている場合、催吐は禁忌。変化があれば受診を指示
[体内動態]
リン酸:経口、経皮で吸収
シュウ酸:吸収・・・正常な成人で服用量の2〜5%(5)
排泄・・・腎排泄は服用後約4 時間でピークで、高濃度のものは
14 時間
[中毒学的薬理作用]
リン酸として:局所に対する直接的刺激。60%以上の濃度では強い腐食作用
(4)(5)
シュウ酸:腐食作用、低カルシウム血症(血清イオン化カルシウムと結合し、
不溶性のシュウ酸カルシウムを形成する)、腎障害(不溶性の
シュウ酸カルシウム結晶が腎尿細管で沈着する)
灯油:中枢神経抑制作用、粘膜刺激作用、心筋の内因性カテコールアミンに
対する感受性を高める(5)(6)
[治療上の注意点]
酸:口腔内の障害の程度と食道・胃の障害の程度とは必ずしも一致しない
シュウ酸の稀溶液の場合、消化器症状がすぐに発現せず、数時間後に
全身症状が発現する
シュウ酸経口摂取時、局所の消化器症状によりすぐ死亡しないなら、吸
収による全身的な中毒症状を生じる。腎障害は、摂取後約2 日後に発
現する
灯油:拮抗剤、解毒剤なし(灯油の項(p.242)参照)
[参考文献]
(1)救急中毒ケースブック(1986) (2)産業中毒便覧(増補版)(1981)
(3)急性中毒情報ファイル(1996) (4)中毒百科(1991)
(5)Poisindex Vol.92(1997) (6)RTECS(1997)
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